透析患者の検査値

赤血球ヘモグロビンヘマトクリット

赤血球

(基準値) 男性 4.0~5.5×10^6/μℓ

                     女性 3.6~5.0×10^6/μℓ

ヘモグロビン

(基準値) 男性 13~18g/dℓ

      女性 11~16g/dℓ

(透析患者) 10~11g/dℓ

ヘマットクリット

(基準値) 男性 37~52%

      女性 32~48%

(透析患者) 30~33%

・透析患者では腎臓でのエリスロポエチンの産生が低下することにより貧血となる.

・体内の水分量が増加すると血液全体に対し,赤血球以外の水分が占める割合が増えることで血液が希釈されヘマトクリットは低下する.このことからヘマトクリットはドライウェイトの決定の指標としても用いられる.

 

血小板

(基準値) 16~41×10^4/μℓ

・透析患者において血小板値は健常人と変わらないが,尿毒症では血小板の機能のうち血小板凝集能,粘着能,血小板第Ⅲ因子能の低下を生じるため易出血性を示す.

・ヘパリン投与時はヘパリン起因性血小板減少症のため,血小板が減少し血栓症を引き起こすことがあるため注意する.

血液透析の直後では透析膜に血小板が付着することから,一時的な血小板が減少する.           

 

白血球

(基準値) 3.8~8.5×10^3/μℓ

・透析患者では白血球数は健常人に比べ,やや低値となるが導入時に高値となる場合は,バスキュラーアクセス感染や肺炎などの感染症の他,透析液や血液回路,,ダイアライザ,滅菌に使用するエチレンオキサイドガス等に対するアレルギー反応を疑う.

・透析開始15分後,白血球(好中球)が一過性に減少する.血液が透析膜と接触することで補体が活性化し,肺血管内に白血球が貯留する.

 

尿素窒素(BUN)・クレアチニン(Cr)

BUN

(基準値) 8~22mg/dℓ

(透析患者の管理目標) 90mg/dℓ以下

Cr

(基準値) 男性 0.6~1.1mg/dℓ 

      女性 0.4~0.7mg/gℓ

(透析患者) 男性 12~14mg/dℓ(透析前)

       女性 10~12mg/dℓ(透析前)

・BUNとCrは腎臓で排泄される物質であるため,腎不全では体内に蓄積し高値を示す.

・BUNは透析の前後に測定し,透析量が十分であるかを表すの値の一つとなるが,食事や蛋白異化の影響を受けやすい.対してCrは食事の影響を受けないため透析効率の指標としては有利である.Crは筋肉でクレアチンから産生されるため,筋肉量の影響を受けやすい.

 

・Crは筋肉が代謝した結果できる分子量113の小分子量物質である.筋肉の代謝産物であるため体格や性差,運動量の影響を受け,女性や高齢者ではやや低値となる.そのため,透析量が適切かを判断する他の指標において透析量が十分であることが確認できればCr自体は多少高値でも問題はないと考えられている.

・血清Cr値8mg/dL以上が透析導入の目安の一つとなっている.

・BUN/Cr(比)が10以上では高たんぱく食,アミノ酸輸液,消化管からの出血,尿路閉塞,蛋白異化亢進,脱水が考えられる.

・BUN/Cr(比)が10以下では低たんぱく食,肝不全が考えられる.

 

β2ミクログロブリン

(基準値) 0.5~2.0mg/ℓ 

(透析患者) 30~70mg/ℓ

・β2ミクログロブリンは分子量11800の低分子量蛋白であり,透析アミロイドーシスの前駆蛋白となる.

・β2ミクログロブリンは糸球体基底膜を自由に通過するが,99.9%が再吸収・分解され尿中には微少量しか排泄されない.腎不全患者では腎臓による排泄が低下するため血液中に蓄積する.

・血清β2ミクログロブリンが27.5mg/ℓ以下では生命予後が良好であることが明らかになっている.

 

総蛋白(TP)・アルブミン(ALb)

TP

(基準値) 6.7~8.3g/dℓ 

ALb

(基準値) 4.0~5.0g/dℓ

(透析患者の管理目標) 4.0g/dℓ以上

血漿蛋白はアルブミン免疫グロブリン,補体,凝固因子などの他,イオンやホルモンと結合する蛋白があり,これらの総和を指して総蛋白という.

・透析患者では食事摂取量減少,蛋白尿,慢性の炎症,透析液への漏出からTPは低値を示すことが多い.

 

・ALbは血漿蛋白に最も多く含まれており栄養状態の指標として用いられる.

・ALbは膠質浸透圧の70~80%に寄与することから,透析患者ではALbの維持が非常に大切である.膠質浸透圧はプラズマリフィリングを促進するため,安全に除水を行う上でもALbの維持は重要である.

 

ナトリウム(Na)

(基準値) 138~146mEq/ℓ

・Naは細胞外液の陽イオンの約90%を占め,細胞内外の水分の維持に最も重要な浸透圧物質である.

・Naの値は体内の相対的な水分とのバランスの異常であり,水分摂取不能や多量の発汗がある場合は高値,水分過剰摂取,浮腫等では体液の希釈のため低値となる.

 

クロール(Cl)

(基準値) 99~109mEq/ℓ

・Clは細胞外液に最も多く存在する陰イオンである.

・血清Clは血清Naと重炭酸イオン濃度に影響され,血漿浸透圧の異常を反映する.血清Clの異常は,Na:Cl=1.4:1付近であればNaの異常と原因が同じであり,かけ離れている場合は酸塩基平衡以上によって起きているといわれている.

 

カリウム(K)

(基準値) 3.6~4.9mEq/ℓ

・Kはその80%が腎臓で排泄されるため,腎不全では高値を示しやすい.腎臓からの排泄はアルドステロンにより増加する.

・Kは細胞内液中の主要な陽イオンであり,インスリンの欠乏,アシドーシス,溶血などでは細胞外へのKの流出が増加する.

・Kが6mEq/ℓ以上では異常知覚,嘔吐,しびれ,倦怠感等を自覚する.

・Kが7mEq/ℓ以上では四肢筋・呼吸筋・平滑筋の麻痺,著名な脱力感,鼓腸が起こる.

・Kが8mEq/ℓでは致命的な不整脈を生じる.

 

カルシウム(Ca)・リン(P)

Ca

(基準値) 9.2~10.8mg/dℓ

(透析患者の管理目標) 8.4~10.0mg/dℓ

P

(基準値) 2.5~4.7mg/dℓ

(透析患者の管理目標) 3.5~6.0mg/dℓ

・腎不全患者ではビタミンDが欠乏するため,CaとPの値を維持することが困難であり,腎性骨異栄養症や二次性副甲状腺機能亢進症,異所性石灰化などを起こしやすい.

・血清Caの半分はアルブミンと結合している.残りの半分のCaはイオン化Caとして存在し,血液凝固,血小板凝集,神経や筋の興奮,ホルモンの分泌など様々な細胞の機能の調節を担う.

・ALbが4g/dℓ以下の低アルブミン血症では,Payneの式により補正値を算出する.

 →補正Ca(mg/dℓ) = 実測Ca値(mg/dℓ) + (4 - ALb)

ビタミンD過剰投与では高Ca血症となる.

・末期腎不全ではCa8.0mg/dℓ未満の低Ca血症を呈する.

 

・PはCaと同様に骨の主たる成分であり,エネルギー代謝,糖代謝,核酸成分,酸塩基平衡などを担う.

・血清P濃度は食事による摂取量や腸管での吸収,骨からの放出,腎臓からの排泄により変化する.

・リンには有機リンと無機リンが存在するが,経口摂取により体内に入った有機リンは40~60%程度が吸収されるのに比べ,無機リンは約90%吸収される.血清P濃度は無機リンを測定している上,無機リンはコーラやビール,食品添加物に多く含まれることから,これらを多く摂取する腎不全患者では血清P濃度は非常に高値を示す.

 

副甲状腺ホルモン(i-PTH)

(基準値) 10.3~65.9pg/mℓ

(透析患者の管理目標) 60~180pg/mℓ

・PTHは骨,腸管,腎臓に働き血中Caを増加させる作用をもつホルモンである.

・腎不全患者では低Ca血症・高P血症により副甲状腺が刺激を受け続け,二次性副甲状腺機能亢進症となりやすい.

・血清Caに対する感受性が低下すると,PTHの分泌は過剰となり高Ca血症を呈する.

ビタミンDはPTHの分泌に対しネガティブフィードバックを与えるが,副甲状腺ビタミンD受容体の感受性が低下するとその反応は低下する.

・腎不全患者及び透析患者では骨病変(低形成骨)を防ぐため,150~300pg/mℓ程度を目安としている(K/DOQIガイドライン