透析患者とリン・カルシウム

腎不全により透析を受けている患者では電解質の異常を呈するが、中でもリンとカルシウムの血清濃度異常は特に頻繁にみられる。

 

健常人のリン・カルシウム

健常人においては、Caは消化管からの吸収と尿中への排出によりバランスが保たれる。消化管でのCaの吸収は食物からのCa摂取とともに活性型ビタミンD3により調節される。ビタミンDの活性化は腎臓で行われる。ビタミンD3は食物からの摂取に加え、皮膚が紫外線を浴びることによっても作られる。活性型ビタミンD3は小腸におけるCaの吸収を促進させ、骨量の減少を抑える作用がある。

 

尿中への排出は糸球体濾過量と副甲状腺ホルモン(パラソルモン)の影響を受ける。パラソルモンは血液中のCa濃度が低下すると分泌が促進され、骨中のCaを取り出し、消化管からの吸収を促すことで血液中のCaを増加させる。また、尿中への排出を抑える。

対して甲状腺ホルモンであるカルシトニンは、パラソルモンと拮抗する働きを持つ。カルシトニンは消化管でのCa吸収と骨からの遊出を抑制し、血中Ca濃度を低下させる。そのため、腎臓からの排泄、骨形成を促進する。

 

体内のPのバランスは食物によるPの摂取と尿中への排泄により規定される。尿中への排泄は糸球体濾過量とパラソルモンの影響を受け、パラソルモンは近位尿細管でのPの再吸収を妨げることで尿中への排泄量を増加させる。

細胞外液中のCa濃度は血清P濃度の影響を強く受ける。血清P濃度が上昇すると「リン酸カルシウム」を形成し、血清Ca濃度は低下する。Pの値はビタミンD3の活性化にも影響を及ぼし、血清Pが増加すると活性型ビタミンD3の産生は低下する。

 

血清Caが低下すると・・・

・活性型ビタミンD3

 小腸でのCa吸収促進 → 血清Ca濃度上昇

・パラソルモン

 骨吸収 → 血清Ca濃度を上昇

 尿中へCa排泄減少 → 血清Ca濃度を上昇

 近位尿細管のP再吸収抑制(排泄増加) → 血清P低下

 

透析患者とリン・カルシウム

 透析患者のように糸球体濾過量が低下すると、腎臓でのPの排泄が減少し、血清P濃度は上昇する。そのため、腸管でのCa吸収を抑制し、骨へのCaの取り込みを亢進させ、血清Caは低下する。血清Ca濃度が低下すると、パラソルモンの分泌が増加する。

さらに、腎不全ではビタミンDの活性化が不十分であることから、腸管におけるCa吸収能は低下し血清Ca濃度も低下する。また、Caの低下に相応してパラソルモンの分泌は増加する。

 

このような状態は二次性副甲状腺機能亢進症を惹起する。腎不全患者の多くは、Caが低下しPが増加しており、副甲状腺が刺激されパラソルモンの分泌は促進され続けている。刺激され続けた副甲状腺は腫大し、血清Ca濃度に連動せずパラソルモンを分泌するようになる。過度のパラソルモンの分泌は骨よりのCa吸収による血清Ca濃度の上昇を起こし、骨病変の原因となる。さらには、カルシウムが軟部組織に沈着することで異所性石灰化を招く。