血液凝固系・RAA系・KK系

 

血液透析においては血液が回路やダイアライザなどの異物と接触し、血液凝固反応が惹起され、凝血のため体外循環は中断される場合がある。RAA系は 様々な病態において機能の低下が認められるが、透析患者に多いとされる糖尿病もその病態の一つである。また、血液凝固反応が起きると、同時にKK系の反応が進み、血圧のコントロールに影響を与える。このことから、これら3つの生体反応について知識を持つべきであると考える。

血液凝固系

 血液凝固に関わる物質を血液凝固因子と呼ぶが、これらは生理的状態では不活性な形で血中を流れている。血液凝固因子は第Ⅰ因子であるフィブリンから第XⅢ因子まであり、いずれも蛋白質で一部が切断されると活性を持った酵素となり、下位の凝固因子を活性化する。

 血管内皮が傷害され、血液が血管内皮下の組織に接触すると、血液凝固の為に第Ⅻ因子が活性化され、活性化第Ⅻ因子となり、内因系血液凝固が起こる。第Ⅻ因子は内皮細胞以外の陰性荷電物質と接触することで活性化することが知られている。

 外因系血液凝固は血管内皮細胞の損傷程度では起こらず、組織が破綻し、組織中の組織因子である第Ⅲ因子やトロンボプラスチンが露出したときに活性化される。これら2つの凝固反応は、終段では可溶性のフィブリノゲンがトロンビンの作用で不溶性のフィブリンとなって凝固する。

RAA

 RAA(レニン-アンギオテンシン-アルドステロン)系は生体内において血圧と体液量の調整機構として重要な役割を演じている。RAA系は、尿中NaCl濃度の低下、腎血流量の減少、ノルアドレナリンの放出などによって惹起される。

 腎臓の輸入細動脈の壁にある傍糸球体細胞からレニンが分泌され血液中のアンギテンシノーゲンからアンギオテンシンⅠが産生される。アンギオテンシンⅠはアンギオテンシン変換酵素(ACE)によりアンギオテンシンⅡに変換される。アンギオテンシンⅡは全身の動脈を収縮させるほか、副腎皮質からのアルドステロンの生成・分泌促進作用を持つ。これらの作用を有することから、ACE阻害薬やアンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬は高血圧治療薬として用いられる。この結果産生・放出されたアルドステロンは、Naを体内に溜める働きがあり、これにより循環血液量が増加して心拍出量と末梢血管抵抗が増加することで血圧を上昇させる。アンギオテンシノーゲンは血管、腎臓、脳、副腎、肝臓、卵巣など生体内で広く生産されている。また、レニンは血圧上昇後に分泌が低下し、RAA系の働きが低下する。

 腎血管性高血圧では、腎血管の狭窄などによる腎血流量の減少に伴い、糸球体濾過量が減少することで、緻密斑に到達するNaCl濃度が低下することでレニンの分泌が亢進するため、RAA系もその働きを増す。

KK

 KK(キニン-カリクレイン)系は血管内皮の損傷により、血液凝固系で活性化された活性化第Ⅻ因子はKK系においてプレカリクレインをカリクレインに変換することで反応が進む。カリクレインはタンパク分解酵素であり、キニノゲンに働いてブラジキニンというポリペプチドを産生する。ブラジキニンは発痛物質である他、血管拡張作用や血管透過性亢進作用を有する。さらに、集合管に作用して尿中へのNaの排泄を増加させ、血圧を低下させる作用を持つ。ブラジキニンは、KK系の最終段においてホスホリパーゼA2を活性化させ、アラキドン酸をPGE2に変換する。PGE2にも弱い発痛作用や血管透過性亢進作用、血管拡張作用を有するが、PGE2はブラジキニンの発痛作用を増強し、痛覚過敏にする。

 アンギオテンシン変換酵素はRAA系ではアンギオテンシンⅠに作用し血圧上昇を招くが、KK系ではブラジキニンと拮抗することで不活性化し、血圧の低下を抑制する。カリクレインはブラジキニンの産生に関与する他、第Ⅻ因子の活性化を促進することで、内因系血液凝固反応の引き金にもなり得る。