一般的な消毒薬

各種消毒薬はそれぞれ固有の抗微生物スペクトルをもつことから、消毒薬を使用する上で留意して選択しなければ、期待する効果を得られない。

病原微生物の分類

  微生物の大きさは、寄生虫、真菌、細菌、リケッチャ、クラミジア、ウィルス、プリオンの順に小さくなる。原虫の一部や真菌、細菌の細胞は、赤血球よりも小さく、通常は数十μm程度である。頻繁に名前を目にする微生物の中でも、エキノコックスマラリア、ニューモチスカリニなどは原虫、カンジダ、クリプトコッカス、水虫などは真菌である。これらは、真核生物と呼ばれ、核膜で囲まれた核を持つ細胞からなり、細胞分裂時に染色体構造を生じる生物である。細菌、リケッチャ、クラミジア原核生物

と呼ばれる。原核生物とは核膜のない細胞からなる生物である。

細菌とウィルス

 細菌の細胞の外側には細胞壁があり、多糖類とペプチドから構成されている。細胞の中にはタンパク質合成を行うリボソームや、細胞呼吸を司るメソソームなどが存在する。原核生物である細菌は明確に区別できる核を持たないが、遺伝情報を司るDNAは糸状に集塊を作って、細胞内に存在する。大きさは、通常0.5~10μm程度である。

 対してウィルスはタンパク質の外殻の内部にDNA、もしくはRNAを持っただけの微生物であり、細菌のように栄養を摂取してエネルギーを生産するような生命活動を行わない。ウィルスは細胞をを宿主とするため、大きさは0.02~0.45μmと、細菌に比べ小さい。また自身で増殖する能力はなく、他の生物を宿主にして自己を複製することでのみ増殖する。

人体・環境・器具に使用する消毒薬

塩化ベンザルコニウム・塩化ベンゼトニウム

 第4級アンモニウム塩で、陽イオンを持つ原子団が菌体表面の陰イオン部分に吸着し、細胞内に浸透して細胞膜の構造を破壊する。

 陽イオン界面活性剤(逆性石鹸)であり、消毒効果と界面活性作用による洗浄効果を有する。石鹸などの陰イオン界面活性剤との混合により効力が低下する。皮革製品や合成ゴム、合成樹脂、光学器具、鏡器具、塗装カテーテルには使用しない。一般細菌や感受性緑膿菌や梅毒トレポネーマには有効であるが、ウィルスには効果がない。皮膚や創傷面、粘膜の消毒に使用できるほか、金属と非金属の消毒にも使用できる。

グルコン酸クロルヘキシジン

 陽イオンを持つことから菌体表面の陰イオン部分に吸着し、比較的低濃度で細菌の細胞膜に障害を与え、細胞質成分の不可逆的な漏出や酵素阻害を起こし静菌的に作用する。0.01%以上の比較的高濃度では細胞内の蛋白や核酸の沈着を起こし殺菌作用を現わす。

 グルコン酸クロルヘキシジンは低毒性であることから、創傷部位や手洗い時、手術野の消毒に繁用される。しかし、膣や膀胱などの粘膜面への使用ではショックの報告があり、脳、脊髄、耳への使用では、難聴や視覚障害を起こすことがあるため禁忌である。金属器具の長時間の浸漬時には防錆剤亜硝酸ナトリウムを添加する。塩化ベンザルコニウムと同様に、石鹸との混合により効力が低下する。一般細菌と感受性緑膿菌、梅毒トレポネーマに対しては有効であるが、ウィルスには効果が認められていない。皮膚や創傷面、金属、非金属に対して消毒を行うことができるが、粘膜に対しては、上述の理由から使用は禁忌である。

消毒用エタノール・イソプロパノール

 細菌の細胞膜中の脂質を溶解し、タンパク変性を惹起する。また、アルコールの脱水作用により、細胞内に浸透すると液体成分とともに蒸発させるため、細胞内部を乾燥させることで殺菌作用を現わす。

 抗菌スペクトルが広く短時間で効力を発揮することから広範囲に使用できる。さらに、他の消毒薬との混合使用で効果を高めるが、上述のような脱脂作用があり、頻回の皮膚への使用は適さない。粘膜や創傷面に対しても刺激があるため用いない。器具に対しては金属・非金属ともに変質することがあるため適さないが、一般細菌、MRSA緑膿菌、梅毒トレポネーマ、結核菌、真菌に対して有効である他、エンベロープを持つウィルスやエイズに対しても効果を発揮する。

 人体に使用する消毒薬

ポピドンヨード・ヨウ素

 ヨウ素の酸化作用により菌体タンパク中の-SH基、=NH基、-OH基などを酸化、破壊して細胞内のタンパクを変質させて殺菌作用を示す。殺菌力は中性からアルカリ性で強く現れる。

 ポピドンヨードはヨウ素にキャリアであるポリビニルピロリドンが結合した水溶性複合体で、徐々にヨウ素を放出するため毒性が低く、人体に広範囲で用いられるが、金属腐食性が強く、皮膚や衣類などを着色する。石鹸などの陰イオン界面活性剤との併用により効力が低下する。ヨウ素においてもポピドンヨードと同様の殺菌作用や作用機序であるが、皮膚刺激が強いため、使用は減少している。また人体への使用においては、長時間・広範囲の使用の際に血中ヨウ素濃度上昇の可能性があり、ヨウ素過敏症に注意する。細菌芽胞とB型肝炎ウィルス、C型肝炎ウィルス以外の微生物に対して有効であるが着色や強い腐食性のため、器具や環境の消毒には使用しない。

オキシドール

 血液や体組織に含まれるカタラーゼにより分解して発生期の酸素を放出し、強力な酸化作用により殺菌作用を示す。漂白作用、脱臭作用も有する。

 殺菌作用と、発生する大量の酸素の泡が洗浄効果を有し、汚れた外傷に繁用される。浸透性が弱く、持続力も短いため、低濃度、短時間での殺菌作用は弱い。低毒性、低刺激性であるが、発癌性の報告がある。抗菌スペクトルは狭く、一般細菌にのみ効力が認められている。

環境に使用する消毒薬

次亜塩素酸ナトリウム

 水と接触して次亜塩素酸(HOCl)または塩素ガスを生成し、主に次亜塩素酸の作用により殺菌作用を示す。細菌の細胞膜に浸透して酵素タンパク、核タンパクの-SH基を分解して殺菌作用を示す。また、ウィルスの構成タンパクなどを酸化して不活性化する。

 強力な消毒薬であり、漂白作用、脱臭作用も有する。濃度0.1%以上では強アルカリ性で刺激が強い。金属腐食作用が強く、多くの材料を変質させることがあるため、長時間の浸漬は適切ではない。酸性の洗浄剤との混合では大量の塩素ガスが発生するため併用は禁忌である。抗菌スペクトルは広く、エンベロープを持つウィルスやB型肝炎ウィルス、C型肝炎ウィルスにも適応するが、細菌芽胞と結核菌に対しては有効ではない。

グルタラール(グルタルアルデヒド

 分子中のアルデヒド基(-CHO)が、菌体タンパク中の活性基(-NH2、=NH、-SH)などと反応してタンパク合成阻害などにより殺菌作用を示す。アルカリ性では反応が速くなる。

 現存する消毒薬の中では最も強い殺菌力を持ち、種々の材質の消毒に適する。さらに、B型肝炎ウィルス、C型肝炎ウィルスを殺菌できる上、エンベロープを持つウィルスや細菌芽胞に対しても有効である。有機物の影響を受けにくいが、器具や環境の消毒においては、付着している体液等の汚れは予備洗浄して用いる。蛋白凝固作用を有するので、人体への使用は不適である。眼や呼吸器系の粘膜刺激、皮膚炎や皮膚の白色化、硬化などが生じるため、付着や吸入に注意する。消毒に使用する際は、通気性の良い場所でプラスチックエプロンやゴム手袋を着用して取り扱う。

クレゾール石鹸液

 タンパクと緩く結合しタンパク変性を起こす。高濃度では細菌タンパクを凝固させ、低濃度では細胞壁に作用して溶菌させる。また、細胞膜に対する浸透性が強く、細胞膜の機能低下・破壊を起こし、細胞質のタンパクと結合して酵素作用を不活性化し細菌を死滅させる。

 腐食性で皮膚刺激が強く、損傷皮膚から吸収されやすいため、人体への使用は不適である。殺菌作用と石鹸の洗浄効果を併せ持ち、有機物の影響を受けにくく、有機物への浸透性が良いので、糞便・喀痰や環境の消毒に用いられる。皮膚や衣類等に対しては着色があるため使用しない。