糖尿病治療薬の種類
スルホニルウレア(SU)系
スルホニルウレア系薬は、膵臓のランゲルハンス島β細胞に存在するSU受容体に作用し、カルシウムイオンを増加させインスリンの分泌を促進する。
さらに、筋肉のブドウ糖を取り込む力を向上する作用や肝臓からのブドウ糖の放出を抑える作用をもつ。
製剤例・・・アマリール オイグルコン ダオニール グリミクロン など
ピグアナイド(BG)系
私たちの体内では、肝臓でグリコーゲンが分解されてブドウ糖になる糖新生がという現象が起きている。ピグアナイド系薬は糖新生を抑え、糖が腸から吸収されにくくしインスリンの反応性を向上させる作用を持つ。
製剤例・・・メトグルコ メデット メルビン グリコラン ジベトス など
インスリン抵抗性改善薬
インスリンが十分に分泌されているにも関わらず血糖値が異常高値を示す場合にはインスリン抵抗性が亢進していることが疑われる。この原因としてTNF-αというサイトカインの増加が挙げられる。TNF-αはPPAR2と呼ばれる、脂肪細胞の分化を促進する物質の働きを弱めるとされている。インスリン抵抗性改善薬はTNF-αの働きを抑え、PPAR2の活性を高めることで、インスリンの反応性を改善すると考えられている。
製剤例・・・アクトス アメル ピオグリタゾン錠「~」 など
αグルコシターゼ阻害薬
食物中の糖は唾液によって二糖類に分解され、腸に存在しているαグルコシターゼという酵素によりブドウ糖に分解・吸収される。αグルコシターゼ阻害薬は、二糖類に似た構造をとっているため、αグルコシターゼと結びつき、本物の二糖類と反応しにくくする働きを持つ。その結果、ブドウ糖に分解されるまでに時間がかかり、糖の吸収が穏やかになるため、急峻な血糖値の上昇を抑えることができる。
製剤例・・・ベイスン セイブル グルコバイ など
アルドース還元酵素阻害薬
糖尿病が進行するとグルコースの処理がうまくいかず、ソルビトールとして蓄積される。ソルビトールが神経細胞に蓄積すると、細胞の機能低下や血流低下などにより神経組織に障害を与える。
アルドース還元酵素阻害薬は、グルコースがソルビトールに変換される過程で働くアルドース還元酵素の働きを阻害し、ソルビトールの生成を抑える。
製剤例・・・キネダック エパルレスタット など
DPP-4阻害薬
食事を摂取すると消化管からインクレチンというホルモンが分泌され、インスリンの分泌を促進する。インクレチンはグルカゴンの放出を抑制するが、血糖値が80mg/dlを下回るとインスリン分泌促進作用とグルカゴン放出抑制作用を停止する。そのため、インクレチンの分泌により低血糖を起こすことは少ないと言える。
インクレチンは食事の摂取後に分泌されても、DPP-4(ジペプチジルペプチターゼ)により分解されてしまい、インスリンの分泌を促進する作用は期待外れなものとなる。DPP-4阻害薬はインクレチンの分解を抑え、作用を持続させることで血糖値の上昇を抑える。
製剤例・・・エクア ネシーナ トラゼンタ オングリザ テネリア ジャヌビア スイニー など
GLP-1アナログ製剤
インクレチンの中でもGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)を注射で補い、GLP-1受容体を刺激してインスリンの分泌を促進する。本来、GLP-1はすぐに分解されてしまうがGLP-1アナログ製剤はGLP-1が長時間持続するように構造を改良している。
製剤例・・・トルリシティ ビクトーザ ビデュリオン バイエッタ リキスミア など
SGLT2阻害薬
糖は腎臓(近位尿細管)から再吸収されるが、過剰となると再吸収されず尿へ排出され「尿糖」となる。糖が再吸収される際にはSGLT(ナトリウム・グルコース共輸送担体)という物質が関与する。SGLTには1と2が存在しているが、糖の再吸収に積極的に関わるのはSGLT2である。SGLT2阻害薬はSGLTを阻害し、糖の再吸収を抑え尿中に糖を排出することで血糖値を下げる作用を持つ薬である。
製剤例・・・ジャディアンス カナグル フォシーガ デベルザ アプルウェイ ルセフィ スーグラ など
糖尿病
糖尿病とは
糖尿病とは、膵臓から分泌されるインスリンが不足することで起こる、糖やタンパク質、脂質の代謝異常です。糖尿病には1型と2型の2種類があり、他の疾患によって発症することもあります。発症は様々な遺伝子異常に起因します。症状としては、糖によって生じる浸透圧による多尿や、口渇・多飲、易疲労感、空腹感・多食などが挙げられます。また、血液中のブドウ糖は、高濃度になるとタンパク質と結合して複数の合併症を引き起こすことが知られています。
血糖値はどのように調節されるのか
血糖値とは血液中のブドウ糖濃度を表しています。食物から摂取した糖質(デンプン)は唾液や膵液によって分解された後、小腸でグルコースに分解されます。さらにグルコースは種々の過程を経てグリコーゲンとなり、肝臓や筋肉に蓄えられます。
血糖値は膵臓から分泌されるインスリンとグルカゴンによって調節されています。インスリンは細胞膜の受容体と結合して、体内のブドウ糖を使用したり、グリコーゲンを新生することで血糖値を下げています。グルカゴンはグリコーゲンの分解を促進して血糖値を上げます。
1型糖尿病
インスリンを分泌する膵臓のB細胞が破壊され、インスリン量が不足することで起きます。そのため、治療にはインスリン注射が必要です。多くは子供のうちに発症しますが、ウイルス感染などが原因となり、B細胞に対する自己抗体が産生されることで引き起こされることがあります。
糖の代わりに脂肪がエネルギーとして使用され、体重の顕著な減少が起こります。さらに、ケトン体を生じることから、ケトアシドーシスを起こしやすくなります。
2型糖尿病
2型糖尿病はインスリンの標的臓器である肝臓や筋肉がインスリンに反応しなくなる「インスリン抵抗性」により、ブドウ糖が細胞内に取り入れられなくなることで起こります。インスリンの量が絶対的に不足する1型糖尿病に対し、2型糖尿病ではインスリンの受容体が減少したり、受容体の後段でトラブルが生じるといった現象が体内で起きています。遺伝的素因のほか、肥満や食事内容、運動不足などの生活習慣がインスリン抵抗性を助長している場合も多く、代表的な生活習慣病とも言えます。
治療では、食事療法や運動療法が行われ、高糖尿病薬を服用します。進行するとインスリン注射を使用することになります。
糖尿病の合併症
糖尿病では血液中のブドウ糖濃度が上昇することで様々な合併症を招きます。特に影響を受けるのは身体中の微小血管で、各臓器に分布する毛細血管や細小動脈の基底膜が肥厚し、細小動脈硬化症を起こします。腎臓では糸球体基底膜、眼球では網膜において微小血管傷害を呈し、その結果として腎障害や網膜症に至ります。
高血糖の状態が長期間に及ぶと神経細胞における代謝異常や微小血管傷害のため、末梢神経障害は感覚障害や自律神経失調をきたします。感覚障害では痺れ、こむら返り、疼痛などが代表的な症状です。自律神経障害では、臓器の活動や恒常性を司る神経がおかされるため、消化管機能の低下や血管運動神経の障害によるめまい・立ち眩み、排尿障害、勃起障害がみられます。
これらの腎症、網膜症、末梢神経障害は糖尿病の「トリオパチー」と呼ばれ、糖尿病患者さんに頻発する合併症です。
他にも糖尿病では肥満・高血圧・高脂血症などに伴い、冠状動脈や脳動脈、大動脈、四肢の動脈に粥状硬化を引き起こすため、心筋梗塞や脳梗塞、末梢循環障害を合併しやすくなります。
さらにインスリン欠乏のため好中球の解糖系が抑制されていることに起因する貪食能低下に加え、末梢血管障害のため血流が減少し、各組織が低酸素状態となるため易感染性も惹起されます。
透析患者とリン・カルシウム
腎不全により透析を受けている患者では電解質の異常を呈するが、中でもリンとカルシウムの血清濃度異常は特に頻繁にみられる。
健常人のリン・カルシウム
健常人においては、Caは消化管からの吸収と尿中への排出によりバランスが保たれる。消化管でのCaの吸収は食物からのCa摂取とともに活性型ビタミンD3により調節される。ビタミンDの活性化は腎臓で行われる。ビタミンD3は食物からの摂取に加え、皮膚が紫外線を浴びることによっても作られる。活性型ビタミンD3は小腸におけるCaの吸収を促進させ、骨量の減少を抑える作用がある。
尿中への排出は糸球体濾過量と副甲状腺ホルモン(パラソルモン)の影響を受ける。パラソルモンは血液中のCa濃度が低下すると分泌が促進され、骨中のCaを取り出し、消化管からの吸収を促すことで血液中のCaを増加させる。また、尿中への排出を抑える。
対して甲状腺ホルモンであるカルシトニンは、パラソルモンと拮抗する働きを持つ。カルシトニンは消化管でのCa吸収と骨からの遊出を抑制し、血中Ca濃度を低下させる。そのため、腎臓からの排泄、骨形成を促進する。
体内のPのバランスは食物によるPの摂取と尿中への排泄により規定される。尿中への排泄は糸球体濾過量とパラソルモンの影響を受け、パラソルモンは近位尿細管でのPの再吸収を妨げることで尿中への排泄量を増加させる。
細胞外液中のCa濃度は血清P濃度の影響を強く受ける。血清P濃度が上昇すると「リン酸カルシウム」を形成し、血清Ca濃度は低下する。Pの値はビタミンD3の活性化にも影響を及ぼし、血清Pが増加すると活性型ビタミンD3の産生は低下する。
血清Caが低下すると・・・
・活性型ビタミンD3
小腸でのCa吸収促進 → 血清Ca濃度上昇
・パラソルモン
骨吸収 → 血清Ca濃度を上昇
尿中へCa排泄減少 → 血清Ca濃度を上昇
近位尿細管のP再吸収抑制(排泄増加) → 血清P低下
透析患者とリン・カルシウム
透析患者のように糸球体濾過量が低下すると、腎臓でのPの排泄が減少し、血清P濃度は上昇する。そのため、腸管でのCa吸収を抑制し、骨へのCaの取り込みを亢進させ、血清Caは低下する。血清Ca濃度が低下すると、パラソルモンの分泌が増加する。
さらに、腎不全ではビタミンDの活性化が不十分であることから、腸管におけるCa吸収能は低下し血清Ca濃度も低下する。また、Caの低下に相応してパラソルモンの分泌は増加する。
このような状態は二次性副甲状腺機能亢進症を惹起する。腎不全患者の多くは、Caが低下しPが増加しており、副甲状腺が刺激されパラソルモンの分泌は促進され続けている。刺激され続けた副甲状腺は腫大し、血清Ca濃度に連動せずパラソルモンを分泌するようになる。過度のパラソルモンの分泌は骨よりのCa吸収による血清Ca濃度の上昇を起こし、骨病変の原因となる。さらには、カルシウムが軟部組織に沈着することで異所性石灰化を招く。
降圧薬の種類と作用機序
カルシウム拮抗薬
血管は平滑筋により伸縮している。平滑筋の収縮時には、平滑筋細胞にカルシウムが入り込み、血圧が上昇する。平滑筋細胞膜にはカルシウムイオンの入り口である「カルシウムイオンチャネル」が存在し、ここからカルシウムイオンが細胞に入ることで血管が収縮する。
カルシウム拮抗薬はイオンチャネルへのカルシウムイオンの侵入を阻止することで血管の収縮を抑え、血圧を下げる。
副作用として、顔の火照り、紅潮、頭痛、動悸、めまいなどを起こすことがある。
製剤例:アムロジン ノルバスク アダラート ペルジピン ランデル カルブロック など
ACE阻害薬
アンジオテンシンⅡが増えると血管が収縮し血圧が上昇する。ACE(アンジオテンシン転換酵素)はアンジオテンシンⅠをアンジオテンシンⅡに転換するほか、ブラジキニンを分解する働きがある。ブラジキニンは血管内皮細胞の破壊に伴なって産生され、血管透過性を亢進させ、疼痛を引き起こすが、血圧降下作用を持つ物質でもある。
ACEの働きを阻害することで、アンジオテンシンⅡの産生とブラジキニンの分解が抑制されるため血圧が低下する。
アンジオテンシンⅡは、糸球体の輸入細動脈と輸出細動脈のうち、輸出細動脈をより収縮させる。ACE阻害薬は輸出細動脈を拡張させることで、腎臓を保護する作用があるため、糖尿病患者に頻繁に用いられる。
製剤例:エースコール コバシル タナトリル レニベース など
アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)
アンジオテンシンⅡは、アンジオテンシン受容体と結合することで血管を収縮させ、血圧を上昇させる。
ARBはアンジオテンシン受容体を遮断することで血圧を下げる。
アンジオテンシン受容体は2つ存在している。アンジオテンシンⅠ受容体(AT1)はアンジオテンシンⅡに刺激されると血管を収縮させる。また、アルドステロンを分泌させてNaイオンの再吸収を促進させることで、血漿循環量を増加させ血圧を上昇させる。
対して、アンジオテンシンⅡ受容体(AT2)はアンジオテンシンⅡの刺激により、血管平滑筋を弛緩させる働きやNa利尿を促進させる働きを持つ。AT1のみを遮断するARBを特にAT1拮抗薬という。
製剤例:ミカルディス ブロプレス ディオバン(バルサルタン) ニューロタン
アルドステロン阻害薬
アルドステロンがアルドステロン受容体と結合すると、Naイオンの再吸収を促進し血圧が上昇する。
アルドステロン阻害薬は受容体への結合を抑えることでNaイオンの再吸収を阻害する。
腎臓に作用して水分とNaを排出するため、むくみが改善される。
製剤例:セララ(エプレレノン)
β遮断薬
交感神経の興奮は、ノルアドレナリンがβ受容体に結合して伝わる。β遮断薬は心臓のβ受容体を遮断することで、心拍数・収縮力を抑える。
β受容体を遮断すると、血管は一時的に収縮するが収縮力が弱くなっているため、末梢への血流が不十分となる。その結果、末梢血管は拡張して血液を流し込もうとして、降圧薬として効果は大きくなる。
製剤例:メインテート(ISA-) セレクトール(ISA+) アーチスト(カルベジロール) など
※「ISA」・・・Intrinsic Sympatthomimetic Activity(内因性交感神経刺激作用)
交感神経を刺激する何らかの力が生じたときに限り、β遮断作用を発揮する。安静時には、β受容体をわずかに刺激することで徐脈を防ぐ。
α遮断薬
ノルアドレナリンはα受容体にも結合し、血管を収縮させる。α受容体にはα1とα2があり、両方を遮断すると血管の収縮は抑制できるが、ノルアドレナリンの増加を招く。そのため、血圧を下げる目的ではα1のみを遮断する薬剤が使用される。
α遮断薬は、グリコーゲンの分解を抑制し、血糖の上昇を抑える作用がある。また、血清コレステロールの減少やHDLの上昇など脂質代謝を改善する働きも持っている点で、他の降圧薬とは異なっている。
製剤例:カルデナリン デタントール ミニプレス エブランチル など
利尿薬
高血圧症に対しては、循環血液量を減らして血圧を下げる方法がとられることがある。サイアザイド系利尿薬は降圧剤としてよく用いられている。遠位尿細管でNaイオンの再吸収を抑えるため、水分が血管に引き込まれなくなり、循環血液量が減少する。
ループ系利尿薬はヘンレループの上行脚に作用し、NaイオンやKイオン、Clイオンの共輸送を阻害し、NaイオンとClイオンに加え、水分を尿中に排泄させる。
カリウム保持性利尿薬は遠位尿細管と集合管でのNa再吸収を抑え、Kの排出を抑制する。
近位尿細管での浸透圧上昇を利用して、水分の再吸収を抑制するものを浸透圧利尿薬と呼ぶ。
製剤例(サイアザイド系):フルイトラン ダイクロトライド べハイド など
製剤例(ループ系):フロセミド(ラシックス) ダイアート ルプラック など
製剤例(カリウム保持性):ソルダクトン アルダクトン ジウテレン など
製剤例(浸透圧利尿):D-マンニトール
赤血球関連の検査値
赤血球について
・赤血球は、エリスロポエチンが骨髄中の赤芽球系前駆細胞に作用し、骨髄系幹細胞から分化・成熟した細胞である。
・エリスロポエチンは腎臓で産生されヘモグロビンの産生を促す。また、細胞が成熟・増殖するためにDNAの合成が不可欠であるが、その過程ではビタミンB12や葉酸が必要となる。
赤血球数(RBC)
・男性:4.27~5.70(×10^6/μL) 女性:3.76~5.00(×10^6/μL)
・赤血球数は自動血球計数器で測定される。Hbやヘマトクリット(Ht)などの値も同時に測定される。
赤血球に影響を及ぼす因子
・造血幹細胞の異常 - 再生不良性貧血 真性多血症
・DNA合成にかかわる異常(葉酸やビタミンB12の欠乏) - 巨赤芽球性貧血
・エリスロポエチンの異常 - 腎性貧血
・失血や溶血 - 溶血性貧血 出血
ヘモグロビン(Hb)
・男性:13.5~17.6(g/dL) 女性:11.3~15.2(g/dL)
・ヘモグロビンは酸素と結合し輸送する機能を持つことから、値の低下は貧血症状に直結する。
・ヘモグロビンはタンパクである「グロビン」と鉄(ヘム)が結合した複合タンパクである。
ヘモグロビンの低下
・赤血球産生障害
・鉄欠乏性貧血
・ヘム合成異常 - 鉄芽球性貧血
・グロビン合成異常 - セラサミア(地中海貧血)
ヘマトクリット(Ht)
・男性:39.8~51.8(%) 女性:33.4~44.9(%)
・ヘマトクリットは赤血球が全血に対して占める容積率を表している。
・ヘマトクリットが上昇すると、血液は粘性を増す。
・腎不全などにより血液が希釈されるとヘマトクリットは低下する。
・多血症においてはヘマトクリットが上昇し、過粘度症候群となりえる。
過粘度症候群
・赤血球が異常に増加することで血管内において血液凝集や血栓症が起こる。
・血液中のマクログロブリンの増加や、赤血球が毛細血管を通過する際の変形能の低下によっても起こる。
・マクログロブリンは血漿タンパクに含まれる高分子量グロブリン
・心不全や血栓・頻呼吸や無呼吸などの呼吸障害・チアノーゼ・震戦・痙攣など種々の症状があらわれる。
・腎臓の血管に血栓が生じると腎臓の組織がダメージを受け、尿細管の傷害やタンパク尿があらわれる。
鉄
・血清鉄 男性:80~200(μg/dL) 女性:60~180(μg/dL)
・成人では体内に約3~4gの鉄が存在する。
・体内に存在する鉄のうち、60~70%は赤血球内にヘム鉄として存在する。
・体内に存在する鉄のうち、20~30%はフェリチンやヘモジデリンなどの貯蔵鉄として臓器や組織に存在している。
・血清鉄は早朝に高く夜間に向かって減少するといった日内変動を示す。
・血清鉄は感染症・悪性腫瘍・膠原病・慢性失血・鉄欠乏性貧血では低値となる。
トランスフェリンとTIBC・UIBC
・血清鉄は血漿中のトランスフェリンと結合しており、体内に存在する鉄としては0.1%程度に過ぎない。
・トランスフェリンは糖タンパクで、βグロブリン分画の多くを占める
・トランスフェリンは炎症のマーカーとして減少する。
・生体内において、単体の鉄は有害で不安定であるため、血中ではトランスフェリンと結合し安定している。
・血清中の鉄の99%以上がトランスフェリンと結合している。
・正常な血清中ではトランスフェリンの1/3が鉄と結合している。
・残りの2/3は遊離型で鉄と結合できる。
・TIBC(Total Iron Binding Capacity:総鉄結合能)はトランスフェリンが結合しうる鉄の総量である。
・UIBC(Unsaturated Iron Binding Capacity:不飽和鉄結合能)は血清中で鉄と結合していないトランスフェリンの量をいう。
・血漿中の鉄が減少すると代償によりUIBCが増加し、鉄吸収の効率を高めようとする。
フェリチン
・男性:30~300ng/mL 女性:10~120ng/mL
・フェリチンは水溶性タンパク質で、肝臓や脾臓・胎盤で合成される。
・貯蔵鉄の役割を担う。
・鉄が欠乏すると、初めに貯蔵鉄が減少し、次に血清鉄が低下する。
・血清鉄の低下が進むと赤芽球への鉄の取り込みが減少し、ヘモグロビンの合成ができなくなる。
・鉄欠乏では低値、鉄過剰では高値となる。
・成長期では低値、加齢に伴い増加する傾向にある。
・悪性腫瘍ではフェリチンは高値となるが、血清鉄は減少する。
透析患者の検査値
赤血球・ヘモグロビン・ヘマトクリット
赤血球
(基準値) 男性 4.0~5.5×10^6/μℓ
女性 3.6~5.0×10^6/μℓ
ヘモグロビン
(基準値) 男性 13~18g/dℓ
女性 11~16g/dℓ
(透析患者) 10~11g/dℓ
ヘマットクリット
(基準値) 男性 37~52%
女性 32~48%
(透析患者) 30~33%
・透析患者では腎臓でのエリスロポエチンの産生が低下することにより貧血となる.
・体内の水分量が増加すると血液全体に対し,赤血球以外の水分が占める割合が増えることで血液が希釈されヘマトクリットは低下する.このことからヘマトクリットはドライウェイトの決定の指標としても用いられる.
血小板
(基準値) 16~41×10^4/μℓ
・透析患者において血小板値は健常人と変わらないが,尿毒症では血小板の機能のうち血小板凝集能,粘着能,血小板第Ⅲ因子能の低下を生じるため易出血性を示す.
・ヘパリン投与時はヘパリン起因性血小板減少症のため,血小板が減少し血栓症を引き起こすことがあるため注意する.
・血液透析の直後では透析膜に血小板が付着することから,一時的な血小板が減少する.
白血球
(基準値) 3.8~8.5×10^3/μℓ
・透析患者では白血球数は健常人に比べ,やや低値となるが導入時に高値となる場合は,バスキュラーアクセス感染や肺炎などの感染症の他,透析液や血液回路,,ダイアライザ,滅菌に使用するエチレンオキサイドガス等に対するアレルギー反応を疑う.
・透析開始15分後,白血球(好中球)が一過性に減少する.血液が透析膜と接触することで補体が活性化し,肺血管内に白血球が貯留する.
尿素窒素(BUN)・クレアチニン(Cr)
BUN
(基準値) 8~22mg/dℓ
(透析患者の管理目標) 90mg/dℓ以下
Cr
(基準値) 男性 0.6~1.1mg/dℓ
女性 0.4~0.7mg/gℓ
(透析患者) 男性 12~14mg/dℓ(透析前)
女性 10~12mg/dℓ(透析前)
・BUNとCrは腎臓で排泄される物質であるため,腎不全では体内に蓄積し高値を示す.
・BUNは透析の前後に測定し,透析量が十分であるかを表すの値の一つとなるが,食事や蛋白異化の影響を受けやすい.対してCrは食事の影響を受けないため透析効率の指標としては有利である.Crは筋肉でクレアチンから産生されるため,筋肉量の影響を受けやすい.
・Crは筋肉が代謝した結果できる分子量113の小分子量物質である.筋肉の代謝産物であるため体格や性差,運動量の影響を受け,女性や高齢者ではやや低値となる.そのため,透析量が適切かを判断する他の指標において透析量が十分であることが確認できればCr自体は多少高値でも問題はないと考えられている.
・血清Cr値8mg/dL以上が透析導入の目安の一つとなっている.
・BUN/Cr(比)が10以上では高たんぱく食,アミノ酸輸液,消化管からの出血,尿路閉塞,蛋白異化亢進,脱水が考えられる.
・BUN/Cr(比)が10以下では低たんぱく食,肝不全が考えられる.
β2ミクログロブリン
(基準値) 0.5~2.0mg/ℓ
(透析患者) 30~70mg/ℓ
・β2ミクログロブリンは分子量11800の低分子量蛋白であり,透析アミロイドーシスの前駆蛋白となる.
・β2ミクログロブリンは糸球体基底膜を自由に通過するが,99.9%が再吸収・分解され尿中には微少量しか排泄されない.腎不全患者では腎臓による排泄が低下するため血液中に蓄積する.
・血清β2ミクログロブリンが27.5mg/ℓ以下では生命予後が良好であることが明らかになっている.
総蛋白(TP)・アルブミン(ALb)
TP
(基準値) 6.7~8.3g/dℓ
ALb
(基準値) 4.0~5.0g/dℓ
(透析患者の管理目標) 4.0g/dℓ以上
・血漿蛋白はアルブミン,免疫グロブリン,補体,凝固因子などの他,イオンやホルモンと結合する蛋白があり,これらの総和を指して総蛋白という.
・透析患者では食事摂取量減少,蛋白尿,慢性の炎症,透析液への漏出からTPは低値を示すことが多い.
・ALbは血漿蛋白に最も多く含まれており栄養状態の指標として用いられる.
・ALbは膠質浸透圧の70~80%に寄与することから,透析患者ではALbの維持が非常に大切である.膠質浸透圧はプラズマリフィリングを促進するため,安全に除水を行う上でもALbの維持は重要である.
ナトリウム(Na)
(基準値) 138~146mEq/ℓ
・Naは細胞外液の陽イオンの約90%を占め,細胞内外の水分の維持に最も重要な浸透圧物質である.
・Naの値は体内の相対的な水分とのバランスの異常であり,水分摂取不能や多量の発汗がある場合は高値,水分過剰摂取,浮腫等では体液の希釈のため低値となる.
クロール(Cl)
(基準値) 99~109mEq/ℓ
・Clは細胞外液に最も多く存在する陰イオンである.
・血清Clは血清Naと重炭酸イオン濃度に影響され,血漿浸透圧の異常を反映する.血清Clの異常は,Na:Cl=1.4:1付近であればNaの異常と原因が同じであり,かけ離れている場合は酸塩基平衡以上によって起きているといわれている.
カリウム(K)
(基準値) 3.6~4.9mEq/ℓ
・Kはその80%が腎臓で排泄されるため,腎不全では高値を示しやすい.腎臓からの排泄はアルドステロンにより増加する.
・Kは細胞内液中の主要な陽イオンであり,インスリンの欠乏,アシドーシス,溶血などでは細胞外へのKの流出が増加する.
・Kが6mEq/ℓ以上では異常知覚,嘔吐,しびれ,倦怠感等を自覚する.
・Kが7mEq/ℓ以上では四肢筋・呼吸筋・平滑筋の麻痺,著名な脱力感,鼓腸が起こる.
・Kが8mEq/ℓでは致命的な不整脈を生じる.
カルシウム(Ca)・リン(P)
Ca
(基準値) 9.2~10.8mg/dℓ
(透析患者の管理目標) 8.4~10.0mg/dℓ
P
(基準値) 2.5~4.7mg/dℓ
(透析患者の管理目標) 3.5~6.0mg/dℓ
・腎不全患者ではビタミンDが欠乏するため,CaとPの値を維持することが困難であり,腎性骨異栄養症や二次性副甲状腺機能亢進症,異所性石灰化などを起こしやすい.
・血清Caの半分はアルブミンと結合している.残りの半分のCaはイオン化Caとして存在し,血液凝固,血小板凝集,神経や筋の興奮,ホルモンの分泌など様々な細胞の機能の調節を担う.
・ALbが4g/dℓ以下の低アルブミン血症では,Payneの式により補正値を算出する.
→補正Ca(mg/dℓ) = 実測Ca値(mg/dℓ) + (4 - ALb)
・ビタミンD過剰投与では高Ca血症となる.
・末期腎不全ではCa8.0mg/dℓ未満の低Ca血症を呈する.
・PはCaと同様に骨の主たる成分であり,エネルギー代謝,糖代謝,核酸成分,酸塩基平衡などを担う.
・血清P濃度は食事による摂取量や腸管での吸収,骨からの放出,腎臓からの排泄により変化する.
・リンには有機リンと無機リンが存在するが,経口摂取により体内に入った有機リンは40~60%程度が吸収されるのに比べ,無機リンは約90%吸収される.血清P濃度は無機リンを測定している上,無機リンはコーラやビール,食品添加物に多く含まれることから,これらを多く摂取する腎不全患者では血清P濃度は非常に高値を示す.
副甲状腺ホルモン(i-PTH)
(基準値) 10.3~65.9pg/mℓ
(透析患者の管理目標) 60~180pg/mℓ
・PTHは骨,腸管,腎臓に働き血中Caを増加させる作用をもつホルモンである.
・腎不全患者では低Ca血症・高P血症により副甲状腺が刺激を受け続け,二次性副甲状腺機能亢進症となりやすい.
・血清Caに対する感受性が低下すると,PTHの分泌は過剰となり高Ca血症を呈する.
・ビタミンDはPTHの分泌に対しネガティブフィードバックを与えるが,副甲状腺のビタミンD受容体の感受性が低下するとその反応は低下する.
・腎不全患者及び透析患者では骨病変(低形成骨)を防ぐため,150~300pg/mℓ程度を目安としている(K/DOQIガイドライン)
腎臓
腎臓とは
第11胸椎から第3腰椎の辺りに左右一対となって存在し,後腹膜に接着している.右の腎臓は左の腎臓よりも少し低く存在する.赤褐色でソラマメのような形をしており,内側面はわずかに窪み,腎門と呼ばれる腎動脈,腎静脈,尿管,神経,リンパ管などが出入りする部位がある.
腎臓の排泄機能
血液中の水分,尿素,尿酸,クレアチニン,塩分や電解質などは腎臓で尿として生成され体外へ排泄される.この機能により血液中の不要な物質や有害物質の除去,血液や体液の浸透圧・pH調整,血液量の調節,血漿成分の調節が行われている.
腎臓では糸球体という組織で血液を濾過することで原尿を作り出す.腎臓には心拍出量の1/4程度の血液が流れ込み常に原尿を生成し,その量は1日に約160Lである.このとき,糸球体の毛細血管壁の細孔の大きさと陰性荷電により,血液から再吸収する物質や尿として捨てる物質を選択する.水や尿素,尿酸,クレアチニン,アミノ酸,糖などタンパクと結合していない物質はこのフィルタを通過する.アルブミンはこのフィルタを通過することができないが,何らかの原因により陰性荷電が崩れると通過できるようになる.原尿は尿細管へ流れ,必要に応じて水,電解質,糖,アミノ酸が再吸収される.糸球体を通過できない物質や過剰に存在する薬剤等は能動輸送により排泄される.
クリアランス
腎臓の排泄の能力を数字で表現したものであり,1分間に腎臓によって除去される物質が何mLの血漿中に含まれていたで表す.例えば,ブドウ糖は尿細管で完全に再吸収されるため尿中には排泄されず,そのクリアランスは0 mL/minである.他にも尿素では70 mL/min,クレアチニンでは140 mL/minである.
腎臓によるホルモンの分泌
腎臓では上述のような尿の生成や排泄のほか,レニン,エリスロポエチン,プロスタサイクリンの分泌やビタミンDの活性化を行っている.
レニンは糸球体にある細胞で産生され,アンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンⅠに変換する.アンジオテンシンⅠは肺や血管内皮細胞にあるアンジオテンシン変換酵素(ACE)によりアンジオテンシンⅡに変換される.アンジオテンシンⅡは血管を収縮させ血圧を上昇させる.腎不全においては,腎機能が完全に廃絶するまでレニンの分泌は活発になり,高血圧や糸球体高血圧をもたらす.これは糸球体での過剰な濾過やタンパク尿の原因となる.
プロサタサイクリンは血管拡張物質として働き,糸球体の輸入細動脈,輸出細動脈,血管平滑筋,緻密斑,髄質へ流れる直血管の血管内皮で産生される.プロスタサイクリンはレニンの分泌の調節に関与し,アルドステロンを介するNaの再吸収を調節する.また,腎血流量や,腎糸球体濾過率を調節する.
エリスロポエチンは骨髄幹細胞に作用して赤血球の分化に働く.エリスロポエチンは腎臓の尿細管周囲の間質細胞で作られ,低酸素刺激が誘導因子になる.慢性腎不全では尿細管周囲の間質細胞も障害されいているため貧血が起きやすく,これを腎性貧血と呼ぶ.
ビタミンD3は骨形成や骨からカルシウムを溶出させるために必要であるが,日光中の290~330nmが皮膚に照射されることで作られ生体内に蓄えられる.ビタミンDは肝臓と腎臓で水酸化反応を受け,活性型ビタミンDとなってから作用を発揮する.腎不全では水酸化反応をもたらす水酸化酵素が不十分であるため,ビタミンDが活性化されず骨のカルシウム含有量が減少し骨病変の他,二次性副甲状腺機能亢進症となりやすい.